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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)2751号 判決

原告

須貝美枝子

被告

株式会社富士商会

ほか一名

主文

一  被告らは、連帯して原告に対し、金一四一万九九九七円およびこれに対する昭和五四年四月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告

1  被告らは、連帯して原告に対し、金四六六万〇九六四円およびこれに対する昭和五四年四月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者双方の主張

一  原申の請求原因

1  事故の発生

(一) 発生日時 昭和五二年三月二五日

(二) 発生場所 国鉄西荻窪駅南口前

(三) 当事者

(イ) 加害車 普通乗用自動車(ライトバン・以下、加害車という。)

右運転者 被告佐藤

右所有者 被告株式会社富士商会(以下、被告会社という。)

(ロ) 被害者 原告

(四) 事故状況

被告佐藤は、前記日に前記場所で、加害車後部の上下観音開き状のドアーを上部に開き、フイルム等の商品を近くの商店に配達すべく出し入れをしていたところ、加害車内に積まれた商品が崩れて外に落ちそうになつたので、これを防ぐため、急拠、上部に開いていた同ドアーに跳びつくようにして同ドアーを下方に閉めようとしたところ、偶々、加害車の後方を通過しようとして歩行中の原告の頭頂部を同ドアー先端部で強打させ、その結果、原告に対し、頭部外傷、打撲、変形性頸椎症等の傷害を負わせたものである。

2  責任

本件事故発生場所は、国鉄西荻窪駅前の路上であり、人通りの激しい繁華街である。しかも、同所の片側には自転車が多数置かれていて人が通れず、停止中の加害車の向つて右側の僅か二メートル足らずの狭い空間を同駅から降りた通行人と同駅に向う通行人が対面して行き交い、通行人は二列に並んで進むことがやつとであるから、対面した通行人は加害車の前後に待避せねばならない状況であつた。このような状況のもとで、原告が加害車の向つて右側を通過しようとしたところ、反対方向から三輪車に乗つた子供が進行してきたので、これを先に通してやろうとして加害車の後方に身を入れたとたんに本件事故に遭遇したものである。他方、加害車の運転者である被告佐藤としては、本件事故当時、右現場が右のような道路状況にあつたことを認識していたのであるから、事故の発生を防止するため、加害車の上開した同ドアーの先端(同先端の高さは、地上から一メートル七三センチメートル)に手をかけて静かにこれを引きおろし、同ドアーが水平の状態になつてから、改めて手の位置を替えたうえ、左右の安全を確認しながら力を加えて同ドアーを閉めるべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠り、同現場が駐車禁止場所で通行の混雑する場所でもあつたので、加害車を一刻も早く移動することのみに気を奪われ、矢庭に同ドアーの上部に手をかけて、これを可成強い力で引きおろした過失によつて本件事故を発生させたものである。したがつて、同被告は、原告の被つた後記損害につき不法行為による損害賠償義務がある。また、被告会社は、加害車の保有者として、後記損害につき自動車損害賠償保障法(以下、自賠法という。)三条所定の損害賠償義務がある。

3  損害

原告は、本件事故により次のような損害を被つたものである。

(一) 医療費 金五四万七〇九五円

(二) 交通費 金二万四四二〇円

右(一)(二)の内訳は別表記載のとおりである。

(三) 慰藉料計 金二七八万七〇〇〇円

(1) 傷害分 金一二一万七〇〇〇円

(2) 後遺症分 金一五七万円

右金一二一万七〇〇〇円は、本件事故発生日である昭和五二年三月二五日から昭和五五年五月末日まで三八か月間の通院による傷害慰藉料である。別表によると、原告は、昭和五二年九月三〇日から昭和五五年四月一一日までの間に四四回各所の病院に通院したことになる。また、別表にはないが、西荻中央病院で、昭和五二年三月二五、二六、三一日、同年四月一六日、同年五月一六日、同年七月三〇日、同年八月一〇、三〇日にわたつて治療を受けている。以上によると、本件受傷後の実治療日数は五一日であり、月平均すると二回足らずのものである。しかし、これは、症状が軽いから通院間隔が長いことを意味するものではない。むしろ、逆に頻繁に通院しても治療の効がなく、原告は、不安と焦燥のうちに悶々として日を過してきたものであり、頻繁に通院して症状が好転していく者よりは苦痛の度合いは高いものというべきである。また、昭和五五年四月一一日以降は治療を受けていないが、症状が消失したわけではない。確かに往時の頃よりは症状は多少緩和したが、頭痛、重圧感、しびれ、目まい等に悩まされ、日常生活に大きな支障をきたしているのである。したがつて、原告の傷害慰藉料としては金一二一万七〇〇〇円が相当である。

なお、診断書によると、原告には先天性の背椎管狭少があり、この基礎疾患に外傷が加わつて症候が出現しているものと推測される、とある。仮に、そうであるとしても、原告は、本件事故前は全くの健康体であり、右先天的素因が異常症状となつて出現したことはない。したがつて、本件事故さえなければ、右素因は何ら異常症状に結びつくことなく、原告は、一生平穏に過すことができたものと推測することは充分に可能である。ところで、本件事故後三年余りも経過して未だ症状は消えず、そのよつてきたる病理学的原因も推測の域を出ず、それ故に確かな治療方法も見出せないとあれば、現在の症状をもつてこれを後遺症というほかはない。そして、原告の右後遺症は、等級別後遺障害一二級一二号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当するものである。よつて、後遺症慰藉料としては金一五七万円が相当である。

(四) 逸失利益 金一三〇万二四四九円

原告は、本件事故前、健康な女性で、家事の仕事を一手に引受けるとともに、週五日の割合(ただし、パートタイム)にて高島屋デパートで働いていたものであるが、本件事故のため、次のとおりの得べかりし利益を喪失したものである。すなわち、昭和五二年度賃金センサス女子高校卒業者の平均賃金年金一六〇万七八〇〇円、労働能力喪失率一四パーセント、継続期間(後遺症)七年(ライプニツツ係数五、七八六三)として、原告の逸失利益を算出すると、金一三〇万二四四九円となる。

4  よつて、原告は被告らに対し、右損害額合計金四六六万〇九六四円およびこれに対する本訴状送達日の翌日である昭和五四年四月一三日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求めるため、本訴提起に及んだものである。

二  被告らの答弁と主張

1  答弁

請求原因1(一)ないし(三)の事実は認める。同1(四)の事実中、被告佐藤が加害車後部の上に開くドアーを閉めようとした際に加害車の後方を通過しようとして歩行中の原告の頭部に同ドアーが接触したことは認めるが、その余の事実は否認する。同2の事実中、被告佐藤が加害車の運転者であつたこと、被告会社が加害車の保有者であることは認めるが、その余の事実は否認する。同3の事実は否認する。仮に、原告主張のような傷害・後遺症が認められるとしても、原告は、本件事故の際だけではなく、同事故に関する実況見分の時にも加害車の後部ドアーで頭部を打撲しており、どちらの打撲による傷害・後遺症か不明といわざるを得ない。

2  主張

(一) 免責

本件事故当時、被告佐藤は、加害車の後ろに立ち、上下開きの前記ドアーを閉めようとして同ドアーに手をかけ、これを閉め始めていたのであるから、原告は、同ドアーが閉められることを知り、同ドアーとの接触を避け得る状況にあつた。それにもかかわらず、原告は、他に気をとられ、不注意にも同ドアーが閉められつつあることを認識しなかつたか、あるいは、閉められているドアーとは接触することがないと誤信して、不意に降りてくる同ドアーの下に入り込んだため、本件事故が発生したものである。そして、一方、被告佐藤としては、原告が右のとおり不意に入り込んできたため、事故発生を回避し得なかつたもので、同被告はもとより被告会社にも本件事故発生につき過失はない。また、加害車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたものである。よつて、被告らは(ただし、被告会社は自賠法三条但書による。)、本件事故発生につき責任がないものである。

(二) 過失相殺

仮に、被告らに本件事故発生につき責任が認められるとしても、原告にも前記のように右事故発生につき過失があつたので、本件損害額の算定に当り、この点が十分に斟酌されるべきである。

(三) 損害の一部填補

仮に、被告らに本件損害賠償義務があるとしても、被告らは原告に対し、治療費(交通費を含む。)金四万一九四〇円(昭和五二年三月二六日から同年八月三一日までの分)を支払つているので、これを原告の損害額から控除すべきである。

三  被告らの主張に対する原告の認否

被告らの右主張事実中、(一)(二)の事実はいずれも否認するが、(三)の事実中、被告ら主張のとおり、昭和五二年三月二六日から同年八月三一日までの治療費(交通費を含む。)金四万一九四〇円が被告らより原告に支払われていることは認める。ただし、右治療費は、本訴で請求していないので、これを本件損害額から控除すべきではない。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  被告らの責任原因

請求原因1(一)ないし(三)の事実全部、同2の事実中、被告佐藤が加害車の運転者であつたこと、被告会社が加害車の保有者であることはいずれも当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第四、第五、第七ないし第一一、第一四ないし第二七号証および原告本人尋問の結果によれば、被告佐藤は、原告主張日の午後四時二五分ごろ、東京都杉並区西荻南三丁目九番七号先道路(その幅員約九・九メートル)左側部分に、運転してきた加害車を北西に向けて停止させ、同所において、商品の積み降し等をしたのち、加害車後部荷台の上方に開いていた上下開閉式ドアーの先端(同先端の高さは、地上から約一メートル七三センチメートル)に手をかけ、これを引きおろして同ドアーを閉めようとしたが、当時、加害車の停止のため、その左側方(西南方)道路は狭隘(大人が二人並んでやつと歩ける程度)となり(なお、その右側方〔北東方〕には多数の自転車が駐車していた。)、多数の通行人の往来で混みあい(同所は、国電中央線西荻窪駅南口に近い所であり、その付近には多くの商店が連なつており、当時、多数の人が往来していた。)、はみ出した通行人が開いた同ドアーの直下に入り込んでくることも予想されたのであるから、事故の発生を未然に防止するため、同ドアー直下の通行人の有無と安全を確認したうえ、同ドアーを閉めるべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠り、加害車の発進を急ぐあまり、同ドアー直下の通行人の有無を確認しないまま、漫然と、手で同ドアーを閉めた過失により、偶々、加害車の前方左側(加害車側からみて)からその後方左側に向けて歩行し、反対方向から三輪車に乗つてやつてきた子供を避けようとして、開いた同ドアーの直下に入つた原告(当時四一歳、身長約一メートル五三センチメートル)に気づかず、同ドアーを原告の頭部に打ちあて、その結果、原告に対し後記傷害を負わせた(ただし、被告佐藤が加害車後部の上に開く同ドアーを閉めようとした際に加害車の後方を通過しようとして歩行中の原告の頭部に同ドアーが接触したことは当事者間に争いがない。)ことが認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。

右事実に照らすと、本件事故は同被告の前記過失により発生したものであることが明らかであるから、同被告は、原告の被つた後記損害につき民法七〇九条所定の損害賠償義務がある。また、被告会社は、加害車の保有者として、後記損害につき自賠法三条本文所定の損害賠償義務を負担すべきである。

二  受傷の部位・程度等

前記乙第一七、第二五、第二六号証、成立に争いのない甲第一、第五、第六号証、第七号証の三の一ないし八、第七号証の五の一ないし一六、第七号証の七の一ないし六、第八ないし第一五号証、原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七号証の一、二、四、六、証人須貝和三の証言、原告本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められ、他にこれを左右するに足る証拠はない。

1  原告は、本件事故により頭部打撲等の傷害を受け、本件事故日である昭和五二年三月二五日から同年一一月二二日まで(実治療日数一〇日)西荻中央病院に、同年九月三〇日から同年一一月二二日まで(実治療日数二日)国立病院医療センターに、同年一二月二日から昭和五四年八月二八日まで(実治療日数八日)順天堂医院に、昭和五二年一二月二日から昭和五四年一月三〇日まで(実治療日数二日)お茶の水クリニツクに、昭和五三年一月一二日から昭和五五年四月一一日まで(実治療日数三一日)東京女子医科大学病院に、昭和五三年二月三日(実治療日数一日)荻窪病院に、同年四月五日から同月七日まで(実治療日数二日)杏林堂に各通院して治療を受けた。

2  原告は、本件事故に遭遇するまでは、健康で、盲腸にて入院したことがあるほかは、格別病気らしい病気をしたことがなかつたが、本件事故直後、ひどい頭痛や頭重感があつたので、当初一一日間位は通院治療を受けながら肩書住居で安静にしていた。しかし、原告は、その後、右症状が若干良くなつたので、右各病院に通院して治療を受けつつ、従来勤務していた高島屋デパートに週四回位の割合で働き(ただし、パートタイムの仕事・事務員)にでていたが、今日までの間、屡々、頭痛、頭重感、口や手のしびれ感、目まい、首や肩の凝り、記憶力減退等を訴え、時々、家事や右パートタイムの仕事を休んでいた。そして、原告は、今なお投薬を受けているけれども、その症状にはさしたる変化がない。

3  ところで、右受傷に関し、西荻中央病院医師は、昭和五二年三月三一日付で「病名は頭部打撲で、全治約一週間の見込み、頭部レントゲン線にて異常を認めない。」旨、国立病院医療センター医師は、同年一一月二二日付で「病名は頭部外傷。同年七月一三日初診。神経学的に特に異常なし。レントゲン線検査で頸椎に変形性背椎症あり。自覚的に頭痛・頸部痛を訴え、投薬す。同年九月二九日行つた脳波検査の結果、軽度の変化あり。再検の予定。」なる旨、西荻中央病院医師は、同年一一月二八日付で「病名は、頭部打撲・外傷性頸部症候群である。原告は、頭頂打撲部の重痛い感じと熱感・首、肩凝り等を主訴として、時々通院加療中であるが、日常生活には支障がない。後遺症の有無は未定である。右症状については、精神的影響もみられ、治癒期の推定は、困難であるが、昭和五三年三月二五日ごろである。」旨、東京女子医科大学病院医師は、昭和五三年一二月二九日付で「事故後、原告には、頭重感・頭痛が出現、左顔面の腫脹感が続く。その後、ほぼ発作時に頭痛など右の症候が出現している。同年一月一三日初診。EMI、脳波等には異常が認められなかつたが、頸椎の変形症あり、背椎管狭少化が確認されている。後遺障害有り。」なる旨、次いで、同医師は、昭和五五年四月一一日付で「病名は、〈1〉頭痛、〈2〉背椎管狭少(先天性)、〈3〉瞳孔不同症である。外傷後、右〈1〉〈3〉出現、また、左上下肢のしびれ感が認められた。基礎疾患の右〈2〉に外傷が加わつて症候の出現した可能性が推測される。なお、心因反応性の要素も加わつて病状を修飾されていることも否定できない。現在、ビタミン剤、交感神経遮断剤により著明改善があり、右の症状は殆んど消失した。」旨、鈴木哲哉医師は、同年八月二六日付で「病名は外傷性神経症であるが、本件事故のため、植物性神経障害による左顔面の肥厚極めて頑固な頭痛などの症状が発現している。」旨の各診断をしていた。

以上認定にかかる原告の本件受傷の部位・程度、治療の経緯、自覚的症状、本件事故前後における健康状態および右各医師の診断内容等を総合して考察すると、原告の前記傷害は、自賠法施行令二条別表記載の後遺障害等級第一四級所定の「局部に神経症状を残すもの」に該当し、右後遺症状は昭和五三年三月二五日ごろにほぼ固定したものと認めるのが相当である。

なお、被告らは、原告は、本件事故に関する実況見分の時にも加害車の後部ドアーで頭部を打撲しており、原告の右傷害・後遺症は、本件事故によるものか、右打撲によるものか不明である旨主張しているけれども、前掲各証拠によると、なるほど、本件事故後である昭和五二年九月二八日、前記場所で実況見分が行われた際、前記ドアーが原告の頭部に接触したことがあるが、これは、実況見分に立会つた警察官が、実験的に同ドアーを原告の頭部に軽く乗せただけのことであつて、これによつて、原告に右のような傷害・後遺症が生じたものではないことが明らかであるから、被告らの右主張は失当である。

三  原告の損害

1  医療費計 金四一万二三一一円

通院交通費計 金一万七六三六円

前掲各証拠によると、原告は、昭和五二年九月三〇日から昭和五五年四月一一日までの間、医療費として金五四万七〇九五円、通院交通費として金二万四四二〇円を要したことが認められる。

しかしながら、前記のとおり、原告の右後遺症状は昭和五三年三月二五日ごろにはほぼ固定したものというべきところ、この時期以後の治療については、前記認定の事実に照らして、その必要性を全く否定することはできないけれども、前記のとおり、医師より、原告には心因反応性の要素も加わつて病状を修飾されていることも否定できない旨指摘されていること、前掲各証拠によると、現在、原告の右症状にそれほどの変化はみられず、むしろ、本件損害賠償問題を解決することによつて快方に向うものと考えられること、右症状固定後の治療内容の有効性についても若干問題が残つていることが認められること等を総合すると、原告が右時間以後に支出した医療費および通院交通費は、その六〇パーセントを限度として本件事故と相当因果関係にたつ損害と認め、その余の分についてはこれを本件事故と相当因果関係にたつ損害とは認めないとするのが相当である。そこで、計算するに、前掲各証拠によると、昭和五二年九月三〇日から右症状固定前である昭和五三年三月一八日までの医療費は計金二一万〇一三五円、通院交通費は計金七四六〇円(国立病院医療センターの昭和五二年九月三〇日から同年一一月二二日までの医療費金九五四〇円、通院交通費金一一六〇円、西荻中央病院の同月二二日の医療費金二四四〇円、通院交通費一八〇円、順天堂医院の同年一二月二日から同月九日までの医療費金一一万五〇九五円、通院交通費金一四四〇円、お茶の水クリニツクの同月二日の医療費金一万二〇〇〇円、東京女子医科大学病院の昭和五三年一月一二日から同年三月一八日までの医療費金七万〇四六〇円、通院交通費金四六八〇円、荻窪病院の同年二月三日の医療費金六〇〇円)、右症状固定後である昭和五三年四月五日から昭和五五年四月一一日までの医療費は計金三三万六九六〇円、通院交通費は計金一万六九六〇円(順天堂医院の昭和五四年一月一二日から同年八月二八日までの医療費金二万七六〇〇円、通院交通費金二四〇〇円、お茶の水クリニツクの同年一月三〇日の医療費金一万三〇〇〇円、東京女子医科大学病院の昭和五三年四月二八日から昭和五五年四月一一日までの医療費金二八万九三六〇円、通院交通費金一万三三二〇円、杏林堂の昭和五三年四月五日から同月七日までの医療費金七〇〇〇円、通院交通費金一二四〇円)であることが認められるところ、右症状固定後の医療費と通院交通費につきその四〇パーセントを減ずると、その残額は、医療費が金二〇万二一七六円、通院交通費が金一万〇一七六円となる。そうすると、本件事故による医療費は計金四一万二三一一円(右金二一万〇一三五円と右金二〇万二一七六円の合計)、通院交通費は計金一万七六三六円(右金七四六〇円と右金一万〇一七六円の合計)となる。

2  慰藉料 金九〇万円

前掲各証拠によつて認められる本件事故の態様・程度、受傷の部位・程度、後遺障害の有無・程度、治療の経緯等諸般の事情(ただし、後記過失相殺の点を除く。)を考慮すると、本件事故による原告の精神的苦痛を慰藉するためには金九〇万円が相当であると認める。

3  逸失利益 金三四万八〇四〇円

前掲各証拠によると、原告は、本件事故当時、健康な四一歳(昭和一〇年四月五日生)の女性で、家事の仕事をしながら、高島屋デパートで事務員として働いていた(ただし、パートタイムで)もので、昭和五二年度賃金センサスの企業規模計・産業計・女子労働者・新高卒の平均賃金年金一六〇万七八〇〇円(月金一〇万六三〇〇円、賞与等金三三万二二〇〇円)を下らない年収を得ていたのであるが、本件事故に遭遇したため、金三四万八〇四〇円の得べかりし利益(ただし、本件事故の態様・程度、受傷の部位・程度、治療の経緯等に鑑み、労働能力喪失率五パーセント、その継続期間五年と考え、右年収を基礎としてライプニツツ式計算方法により算出した。右金一六〇万七八〇〇円×5/100×四・三二九四=金三四万八〇四〇円・円未満切捨)を喪失し、これと同額の損害を被つたことが認められる。

四  過失相殺

原告は、前記認定のような過程を経て、加害車後部荷台の上方に開いた上下開閉ドアーの直下に入つたものであるが、前掲各証拠によれば、原告は、この直前、同ドアーが上方に開いたままになつていたこと、被告佐藤が、加害車の後方で、中腰になつて、あわただしそうに、同荷台の中の品物を扱つていたことを現認しており、すぐにでも同ドアーが閉められるであろうことを認識し得る状況のもとにあつたのであるから、同ドアーとの接触を避けるため、同被告の動静に気を配り、いきなり、同ドアーの直下に入ることがないように注意すべき義務があつたものというべきところ、これを怠り、いきなり、同ドアーの直下に入つた過失により本件事故を発生させたものであることが認められ、これを左右するに足る証拠はない。

そうすると、本件事故は、被告佐藤の前記過失と原告の右のような過失とが競合して発生したものといわざるを得ず、その過失割合は、前者が八五パーセント、後者が一五パーセントであると認めるのが相当である。

ところで、被告らより、原告に昭和五二年三月二六日から同年八月三一日までの治療費(交通費を含む。)金四万一九四〇円が支払われていることは当事者間に争いがないので、右金員を前記損害額計金一六七万七九八七円に加算した金一七一万九九二七円につき、前記割合で過失相殺すると、原告の残損害額は金一四六万一九三七円(円未満切捨)となる。

五  損害の填補

前記損害額金一四六万一九三七円から既受領の右金四万一九四〇円を控除すると、その残額は金一四一万九九九七円となる。

六  被告らの主張に対する判断

被告らは、前記免責の主張をしているけれども、本件事故発生につき被告佐藤に過失があつたことは前記認定のとおりであるから、右主張は失当としてこれを採用することができない。

七  よつて、原告の被告らに対する本訴請求中、金一四一万九九九七円およびこれに対する本訴状送達日の翌日である昭和五四年四月一三日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める部分は理由があるのでこれを認容するが、その余の部分は失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本朝光)

別紙 〈省略〉

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